Action活動レポート
「農泊と観光 」~5章:まとめ~
吉備中央町の農泊は教育旅行の誘致が基本ベースになって動き始めたものだが、そのターゲットにアジア・パシフィックの教育旅行を選定した理由は前にも述べたように30~40名でその構成を整えることが多いためだ。農泊のキャパシティの問題でその設定をしたが、その他にはやはりインバウンド対応は必然のことと誰しもが認識している。受入に際し、言語、風習、食事など、日本人との違いを楽しむことが大切であり、彼らはその違いそのものを楽しみに来ている。台湾の生徒の様子を見ても、日本の原風景と農村文化を楽しめる場所として満喫している様子がうかがえ、吉備中央町農家民宿協議会の発行する「日本農村文化体験証明書」を大切に持ち帰る様子からもさらにその価値を確認できる。
また、同町はこれまでに、岡山市、真庭市と共同でハラル対策の町として、イスラム教圏からの旅行者へのおもてなしとして、ハラルの認証料理やサービスの提供の研修も受けてきている。タイや韓国からの問い合わせも入るようになり、インバウンド対策への意識はますます高まってゆく様子がうかがえる。
全国的にも農泊はインバウンド対策の効果的な手段としての展開が始まっている。平成25年に1,000万人を超えた訪日外国人観光客が平成30年には3,119万人となり、政府目標の令和2年の4,000万人、令和12年の6,000万人は射程距離に入ったかに見える。ただし、700万人を超える韓国人の訪日が様々な政治問題が絡んで令和元年はどうなるのか。また、同じく200万人を超える香港の情勢も芳しくなく、これらの状況を鑑みると、観光はやはり平和産業であることを否応なく教えられる。それでも、訪日外国人観光客の動向をみる中で、日本で体験したいことのランキングを見ると、歴史・伝統文化、自然・季節、食の魅力、地方訪問が上位を占めてきた。7)
●海外在住12カ国の海外旅行経験者からの調査データより(日本旅行で体験したいこと)
(調査対象国:韓国・中国・台湾・香港・タイ・シンガポール・マレーシア・インドネシア・アメリカ・オーストラリア・イギリス・フランス)
【出典】 (公財)日本交通公社 平成28年版 訪日外国人旅行者の意識調査資料
おいしい日本の食があり、原風景を楽しめ、日本の歴史・文化、生活・風習、さらには日本人との交流ができる場所を求めて地方に拡散してゆく傾向は続くようである。東アジアからの観光客は滞在日数が少なく、相当のリピーターでなければ地方への足は簡単には進まないだろうが、欧米系、特にバカンス法を生み出してきた国の人たちの長期休暇の考え方には日本の農泊はマッチする。訪日外国人旅行客の中ではわずか10%程度のシェアではあるが、彼らの動向を見守り、期待したい。日本の農山漁村の将来は彼らの求める場所になれるかどうかにかかっているといっても過言ではない。観光事業と農業事業をうまく掛け合わせながら進めてゆくことは、産官学金、農商工連携の好事例として発展してゆく可能性は極めて高いものと考える。
<参考文献>
1)インバウンド誘客に向けた農泊の推進について
竹内秀一(農林水産省都市農村交流:2017年9月執筆)
2)農林水産省ホームページ
https://www.maff.go.jp/ 2019年8月25日アクセス
3)NPO法人安心院町グリーンツーリズム研究会
http://www.ajimu-gt.jp/page0123.html 2019年8月25日アクセス
4)・5)吉備中央町ホームページ
https://www.town.kibichuo.lg.jp/
2019年8月25日アクセス
6)グリーン・ツーリズム 軌跡と課題 井上和衛
(筑波書房:2011年10月14日発行)P10~P24
7)JTBインバウンドニュース
https://www.jtb.co.jp/inbound/mail/
2019年8月25日アクセス コントリビュータ
折本 浩一 教授(国際観光ビジネス学科)