Action活動レポート

「教育旅行の未来」~第3章:21世紀に求・・・

⑴岡山県S女子高校のキャリア教育の実践事例

S女子高校は、20年前に比べ生徒が半減し、学校経営を見直さなくてはいけないと相談を受けた。学園の抜本的な教育カリキュラムの見直しをするため、教育旅行の観点で提案を求められ、学校の方針を聴き、どのような生徒像を求めているのかをヒアリングしたうえで、「キャリア教育旅行」を提案した。同校は新制服の採用、カリキュラムの変更などで学校イメージを一新しようとしていたこともあり、筆者の「キャリア教育」に同調し、新たな学園のキャッチフレーズを「確かなキャリア教育で“未来”を手に入れる」とした。(図2)

キャリア教育旅行の目的地は東京とした。企業・組織等の職場見学レベルではなく、基本はジョブシャドウとした。相手は総務・人事ではなく最前線で働く人。働くその場でインターンシップを組み入れた形式とした。大手新聞社では校正や編集実務に就いた後に皇居の見える社長室で女性幹部とブレスト。区立病院では医師志望者は手術室に入り、手術の様子をジョブシャドウして医療のチーム力を観察。医師だけで医療は成り立たないことを実感した。国際特許事務所では中国の模造品問題や海外のクライアントとの交渉の現場を直撃。ホンモノをいかに見せるかに腐心した。日本一の建築設計事務所の女性部長の講話を聴き、ワークショップ。都心のショッピングセンターの女性管理職との販売戦略構想などだ。女子校ゆえに女子が働く現場を「魅せる」ため、すべての現場で女性中心に配置した。移動のバスはガイドもドライバーも女性。女性の活躍を見せつけたプログラムは30人限定とし、希 望者多 数の場合は選考までする人気プログラムとして定着した。この研修は選抜された生徒のみの参加であり、しかも事前・事後に特別学習の時間も設定し、本気でなければ続かない。

写真1.S女子高生の販売戦略策定ブレスト

第1期生は校内プレゼン大会で体験報告とともに自身のキャリア形成について発表し、表彰されたという。高校1年生のプログラムとしてはレベルが高いものだったが、残された高校生活で自らの未来を創るためこれからどう変わるべきかを学んでくれた。

(2) 有名進学校の生徒自身による修学旅行の実践事例

5年前に遡るが、東大進学№1の高校が瀬戸内に修学旅行を計画するという情報を入手した。情報提供から誘致活動を本格的に実施した結果、広島・愛媛を中心としたコースとなった。同校は体育祭や文化祭、修学旅行も生徒が主導し、経費に関わること以外は生徒がすべて決めていくという。今回の瀬戸内への旅行も当該学年の生徒400名の投票によるものだ。彼らの事前学習のレベルは高校生の域を超えており、広島の原爆についての記述では原爆の作り方そのものを解説し、論評している。委員長は戦時統制下のマスコミの実態を知りたいと中国新聞の論説委員を訪ね、自身が不明と思ったことは直接広島まで聞きに来た。

彼らは「なぜ?」と思ったことはとことん追求し、我々に5W2Hを遠慮なく投げかけてきた。その結果もあり、彼らの作り上げた修学旅行は地元メディアにも多く取り上げられ、筆者が開発中だった農泊プログラムのよきプロモーションとなった。

その彼らの事前学習用の広報誌⁸⁾の第一号に修学旅行委員長の挨拶が掲載されている。「(前略)学年旅行というイベントにもっと大きな話題性を持たせるべきではないか。これは僕たちの手腕次第なのだが、皆さんの間で話題性に欠けるようになった。それではだめだと思いもっと多角的なPRに挑戦する。(中略)今回のコンセプトは『Pleasure for all』とした。このコンセプトを考える過程で、『話題性のあるイベント』として運動会、文化祭を改めて見直した。そこにあったのは『大勢での団結による達成』だ。『学年全体で旅行を作っている』という意識があればもっと旅行を楽しめるはずだ(後略)」。委員長の力強い宣言のもと、10か月間にわたる彼らの奮闘努力によりそのコンセプトどおりの旅行となった。

彼らの後輩も中国四国にやってきた。地方自治についての探求をしたいという要望に応え、これも筆者が開発中だった岡山県新庄村を紹介した。岡山県の北西部、鳥取県に接する人口1,000名弱の寒村。かつては旧出雲街道の宿場町として栄え、日露戦争の戦勝記念で植えた桜が街道を埋め、100年以上経過した桜並木が有名な村だ。農林水産省の都市農村共生・対流総合対策交付金を活用して、森林セラピー基地の観光資源としての商品化、農泊事業を進めていた。その経緯もあり村長に話をすると、村長自身が同校を直接訪問。指導教諭が地方自治を学ぶに格好の首長に会える村として生徒に紹介したことで彼らの目的地となった。

アンケートにより400名中100名がこの村への訪問を希望し、宿泊施設のない村のためイベント民泊制度を利用して村民の家庭に泊めることで対処した。村長以下、村の重役たちの家には生徒が50名の枠で宿泊し、地方自治や地方創生について深夜まで意見交換をした。残り50人は隣接する蒜山へ宿泊した。100名は村の中でフィールドワークをし、環境設計の専門家の指導でワークショップを開催し、この村の100年後を考えて班ごとに発表した。生徒代表による桜の苗木の植樹が行われ、10年後20年後に彼らが再びこの地を訪ねてくれたとき、この桜が大きく花を咲かせていることを願うものだった。村長が開成桜と名付けた。

【引用文献】

7.JTB岡山支店教育事業特命「キャリア教育プログラム(初版概略)」(2016)

8.私立開成高等学校『「2017年度修学旅行広報誌「あの頃の青を探して」』第1~11号(2017)