Action活動レポート

「教育旅行の未来」~第4章:教育旅行の未・・・

教育旅行は日本独自の教育システムであり文化として発展してきた。かつては日本の特殊な活動として見られていたが、30年前ごろから東アジア、そして環太平洋諸国で教育の形として定着した。特に台湾や中国・韓国からの修学旅行は年々校数、生徒数も多くなり、JNTO⁹⁾を中心に全国の自治体がインバウンド施策として積極的にPRを展開しはじめた。

海外からの修学旅行はその校内でコースを決め、希望者を募り、学年の枠を超え、時には保護者や家族、卒業生までも同行することがある。日本のように同学年がほぼ全員で、多くの引率教員の指導で実施するような事例はほとんど見られない。

筆者は2017年から岡山県教育庁留学コーディネーターとして岡山県立高校と海外の高校を姉妹校縁組させ、相互の交流を推進してきた。カナダ、ニュージーランドなどもあるが、時差も1時間しかなく、親日的で行き来のしやすい台湾との締結に力を入れた。台南市、高雄市など台湾南部の高校が岡山との縁を持ち、30人程度でやってきて交流を楽しむパターンができている。平素から姉妹校同士OnLineで交流をし、学校や街の紹介レベルから、課題を共有して議論を交わすことにも挑戦している。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で実際の交流ができない分、この方式がますます深みを増している。

グローバル社会において、これらの交流が個々の信頼関係から国同士の発展へ繋がることで、平和な世界を創出する機会をもたらすものとなる。教育旅行の最大の成果として将来に継続されることを期待する。国際連合のスローガン、「観光は平和のパスポート」である。

教育旅行は旅行会社にとっては安定収入として効率的な市場の一つである。例えば岡山県では、高校1年の4月には翌年実施の修学旅行の入札が行われ、実施旅行会社が決定される。生徒数200名でひとり8万円の旅行代金とすると1,600万円の売上が実施1年以上前に確定する。修学旅行は原則全員参加で目減りすることは考えられない。学校が指定する行程やホテルなど仕様書どおりの場合には厳しい競合に陥りやすいが、プロポーザルの企画競争とすれば他社が真似できないプログラムの提供など、ブルーオーシャン戦略への転換を図ることもできる。事実、前章で取り挙げた事例は競合が無い。高度な企画力を駆使した高付加価値商品、コンサルティングなど高度な人的サービス、企画・仕入力を駆使した商品造成¹⁰⁾により、他校に先駆けた特別なプログラムを提供することで、学校はPRの素材とし、生徒は自らの参画で満足感を得、受入れる地域や企業・組織も教育への協力者としての意義を感じることで、三方よしの効果が期待できる。

平成29年度改訂の学習指導要領によると、修学旅行は「旅行・集団宿泊的行事」として改めて定義され、その目的は次のように示された。「平素と異なる生活環境にあって,見聞を広め,自然や文化などに親しむとともに,集団生活の在り方や公衆道徳などについての望ましい体験を積むことができるような活動を行うこと」としている。

教育活動の一環として期待される教育旅行だが、学校現場では多くの課題を抱え、持続可能性についての議論がある。①旅行代金が高騰し、家庭経済を直撃する。②事前・事後の学習を求められ、教員の負担が重い。③生徒も一律に旅行することを求めない者もいる。④何事にも公平を重んじる教育現場において、分散コースの行程の平準化にも苦慮している。

解決策を考えてみよう。先に紹介した台湾の学校は世界各地に持つ姉妹校、あるいは関係校へ学年を問わず生徒の希望で修学旅行を実施している。米・英にはホームステイを中心に2週間。日本へは交流をメインに6日程度。学年の垣根を越えて組織されるので自ずと良い意味での上下関係が発生し、上級生が下級生の面倒を見る効果もある。なおかつ気に入ったら毎年でも同じ所へ行ける。現に2年続けて岡山の姉妹校訪問を果たした生徒を数人見かけた。生徒の自主性と積極性が基本となり、旅程の組み立ても生徒が深くかかわっている。

以下に日本修学旅行協会の近年の総会の教育旅行シンポジウムのテーマを抽出した。

(1) ICTを活用した教育旅行
~新学習指導要領にいう「深い学び」につなげるために~(2019)

(2)「深い学び」につながる教育旅行での体験プログラムとは
~新学習指導要領の方向性を踏まえて~(2018)

(3) 新学習指導要領のもと教育旅行はどこに向かうか(2017)

ここ数年のキーワードは新学習指導要領と「深い学び」である。「主体的・対話的な深い学び」が教育現場に求められるテーマであり、修学旅行も実践の場として期待されている。自らが参画し、選択し、積極的に聴き、話すことで興味を深めて学ぶ。その行動の後にその経験と知識を整理し、学習の糧とすることで未来の選択肢を広げる。非日常での活動であることから、安心・安全の担保は絶対であるが、生徒の自主性と生きる目的を引き出すプログラムであることが望まれる。

【引用文献】

9.JNTOホームページ

www.jnto.go.jp/jpn/ 

⒑林清編著「観光学全集第6巻 観光産業論」原書房 pp.138-142(2015)